ブラジルはISSB義務化を撤回し、保証の要求だけを残した
ブラジルは、ISSB基準の義務化が実現できることを示す事例になるはずだった。
同国の証券規制当局であるCVM(Comissão de Valores Mobiliários)は、2023年10月に決議193号を公布した。第1条は、上場会社、投資ファンド、証券化会社が2024年1月1日以降に開始する事業年度からISSB基準で任意に報告できる道を開いた。第2条は、上場会社については2026年1月1日以降に開始する事業年度から、この報告を義務とすると定めていた。その第2条は、その後撤回されている。
2026年5月29日のCVM決議244号が義務を撤回した
2026年5月29日付のCVM決議244号は短い。第1条で決議193号の第2条と第5条第III号を撤回し、最終条で、公布日に施行され、2026年1月1日以降に開始する事業年度に適用すると定めている。
暦年を事業年度とする会社は、報告義務があると考えていた期間の5か月目に、その義務がなくなったことになる。
第2条には、それ以前にも2本の決議が手を入れていた。2025年3月31日の決議227号は、参照先をISSBの英語版基準から、ブラジル・サステナビリティ基準委員会(CBPS)が公表しCVMが承認した基準へと書き換えた。2024年10月29日の決議219号は提出期限を整理した。決議244号は、義務そのものを終わらせた。
第6条には手がつけられていない
決議193号には保証に関する条文があり、3度の改正を通じて変更されていない。決議244号にも、第6条を改正または撤回する規定はない。
第6条は、サステナビリティ関連財務報告について、CVMに登録された独立監査人による保証を、連邦会計評議会(CFC)が公表する基準に従って受けることを求めている。水準は2段階に分かれる。第I号は2025事業年度末までが限定的保証、第II号は2026年1月1日以降に開始する事業年度から合理的保証である。
第2条が削除され、第5条が「entidades optantes(選択した事業者)」を対象とする文言に書き換えられた以上、この決議が現在規律する報告書は第1条の任意報告だけである。第6条はその報告書に適用されるため、2026年に開始する事業年度について提出する会社には合理的保証が求められる。これはCVMが別途公表した見解ではなく統合条文の読み方なので、判断する前に監査人へ書面で確認されたい。
第1条が挙げる対象は上場会社、投資ファンド、証券化会社である。提出するかどうかは任意でも、提出するなら保証の水準は選べない。
任意での報告は3年間の継続を伴う
決議244号は、任意報告の側にこれまでなかった条件も加えている。
第1条第4項は、サステナビリティ関連財務情報の作成と開示を選択した事業者は、少なくとも3事業年度連続で公表しなければならないと定める。第5項は、公表をやめることにした選択事業者は、その決定を市場向け公表(comunicado ao mercado)で知らせなければならず、その公表は、公表しない年度の前年度の年次財務諸表をCVMに提出する日までに行うと定める。
第3条は、CBPSおよびISSBの基準への準拠を、明示的かつ留保なく宣言することを求める。決議244号の第3条は、提出を選択した上場会社は決議193号第1条に従って行わなければならないと加えており、制度を受け入れずにISSB風の書類だけを出す道を閉じている。
書き換えられた第5条の提出期限は、最初の提出年度は参照様式(FRE)の提出日と同日、2回目の提出年度からは事業年度末から3か月以内か財務諸表の提出日のいずれか早い方となる。
選択した事業者は3事業年度連続での公表を負う。これに加えて合理的保証を受け、離脱する際には市場向け公表が必要になる。選択するかどうか自体は任意のままである。
2027年1月1日からは、報告しないことに説明が要る
第3条に加えられた単項は、2027年1月1日以降、サステナビリティ報告書を提出しないことを選択した上場会社は、その選択を市場向け公表で正当化し、年次財務諸表の提出日までに公表し、経営者の理由を記載しなければならないと定める。
ブラジルは制度を義務からコンプライ・オア・エクスプレインに変え、説明義務の開始を、義務化が始まるはずだった時点の1年後に置いた。
したがって会社が負う内容は、どの年度を見るかで変わる。2026年に開始する事業年度については、報告義務も説明義務もない。2027年1月1日以降は、報告義務はないまま、報告しない場合に経営者の理由を公表する義務が生じる。
年次財務諸表と並べて公表される説明文書は、投資家や議決権行使助言会社が決算と並べて読む書類であり、適切に書くには多くの取締役会が想定するより時間がかかる。制度の外に留まるつもりの会社は、提出直前ではなく今から理由を起案しておくほうがよい。
ブラジルは合理的保証を残し、義務のほうをなくした
2026年には他の法域でも制度が緩んだ。欧州連合はCSRDの保証を引き上げず、限定的保証のまま据え置いている(オムニバスがCSRDの保証に何をしたか)。英国については、採用したばかりのISSB基準から発効日が外された経緯を英国のコンプライ・オア・エクスプレインで扱った。ブラジルで特異なのは、ずれの向きである。義務がなくなり、保証水準は最上位のまま残った。
義務と保証水準は別々のレバーであり、ブラジルでは両者が逆方向に動いた。「もう義務化されたか」だけを追う報告チームは、ブラジルを緩和と読み、提出コストを読み違える。
実務として何を確かめるか
ブラジルに上場子会社を持つ場合、あるいはブラジルの上場会社である場合、立ち位置は4つの問いで決まる。
2024年度または2025年度について、すでに第1条に基づく選択をしているか。している場合、3年連続の規定と離脱公表の規定がその選択に適用される。やめることは、静かに決められる判断ではなく開示事象になる。
2026年に開始する事業年度について提出するつもりなら、任意提出者に対して第6条が求めるのは合理的保証である、という点をCVM登録の監査人に確認したか。合理的保証は限定的保証よりも費用が相当に大きく、時間もかかる。監査人が質問と分析的手続ではなく、内部統制の検証まで行うためである。その証跡が実務でどう見えるかは、ISSA 5000に基づく保証を参照されたい。
提出しないつもりなら、2027年1月1日から必要になる経営者の説明は、誰が起案するのか。
そして、すでにCSRDで報告している、あるいはSSBJに備えているなら、ブラジル向けの提出のうちどれだけが同じ基礎データか。多くの場合、大半が同じである。IFRS S1およびS2のガバナンス、戦略、リスク管理、指標という構造は、ブラジルの制度が取り込んだ構造と同じであり、追加作業はマッピングと保証証跡であって、二度目のデータ収集ではない。
Socious Reportは、一つのデータセットからCSRD、SSBJ、ISSBの監査に耐える報告書案を作成し、その結果に独立したSocious Verify認証を付与します。ブラジルの制度はCBPSが内部化したISSB基準であるため、東京や欧州の提出を支える気候・サステナビリティデータが、そのままブラジルの提出にも使えます。自社のデータの現在地を確かめたい場合は、ISSB対応の概要からご覧ください。